孤独を救ってくれた笑顔との出会い
金さんは韓国出身で、入社前はパートナー(アルバイト)として働いていたそうですが、いつからなぜ日本に来たのですか?
金昇吾
高校を卒業してからです。当時、韓国の就職市場が不安定だったので、独学で日本語を勉強して来日し、九州にある大学に入学しました。入学してから、生活費のためにアルバイトをしたくてコンビニや飲食店などの面接を受けましたが「外国人はちょっと・・・」という反応ばかりで、どこも受からなかったんです。そんななか「金さんは元気いっぱいで良いね!」と採用してくれたのが『焼肉きんぐ』でした。
不採用が続いた中で、ようやく採用されたんですね。
金昇吾
はい、すごく嬉しかったです。日本にきて初めて、自分という人間をまっすぐ見てもらえたような気がしました。働き始めてからも、社員やパートナー同士の仲が良く、わからないこともわかるまで教えてもらえて、とても充実していました。外国人だからといって特別扱いされることなく「一緒に頑張ろうね!」と仲間として認めてもらえることが幸せでした。特に当時の店長が誰よりも明るく、常に笑顔で店舗の空気をつくり上げている姿が本当にかっこよくて。いつの間にか、その背中を追いかけて働いていました。
そこから、幹部候補生(1年目の新卒社員)として入社されたんですね。入社を決めたきっかけは何だったのでしょうか?
金昇吾
物語コーポレーションの人と理念に惚れ込んだからです。もともとは語学力を活かしてホテルや観光業界で働きたいと考えていたんですが、当時のエリアマネジャーにポロッと就職の不安を話したら「いまからそっちに行くよ!」とすぐに会いにきてくれて。僕の話を聞いて自分の経験や意見をたくさん話してくれたんです。いちパートナーの僕にこんなに向き合ってくれるなんて、と驚きましたね。あと、物語コーポ―レーションの就活セミナーで、当時会長だった小林さんが「自分の人生を自分らしく生きてほしい」「自分の思ったことを言って、やりたいことをやってほしい」と個人の生き方について熱く語っていて、それにも強く共感して入社を決めました。
押し付けの「正義」からの脱却
実際に入社してからは、理念とどう向き合いましたか?
金昇吾
とにかく「Smile & Sexy」を徹底していました。配属された店舗では、誰よりも笑顔で元気にふるまい、とにかく自分の意見を言おうと夢中でしたね。意思決定をするときの基準もすべて「Smile & Sexyかどうか」でした。この想いはまわりに負けない自信がありましたし、みんながこの理念を体現していれば、最強のお店がつくれると信じて行動していました。
その金さんの熱量は、お店にどのような変化をもたらしたんでしょうか。
金昇吾
活気あるお店づくりを徹底したことで、お客様満足度のスコアがぐんぐん上がりました。やればやるほど成果がでるので嬉しかったですね。ただ、当時は「理念こそが正義」と信じきっていたので、まわりの仲間に「もっと意見を言ってよ!」とか「もっと元気を出して!」と、自分と同じ熱量を求めてしまっていました。当時の店長がそんな僕を根気強くフォローしてくれたおかげで、相手には相手の事情や想いがあるという当たり前のことに気づき、寄り添うことの大切さを学ぶことができました。
自分の正解を押し付けるのではなく、相手の心に寄り添う姿勢へと変わっていったのですね。そうした変化が、仲間との向き合い方に現れたエピソードはありますか?
金昇吾
まずは自分から歩み寄ることを大切にするようになりました。例えば、僕が店長に昇格して着任したとき、ちょうど複数人のパートナーが一斉に辞めようとしていたんです。初対面で「もうここでは働きたくない」と言われて、正論では引きとめられないと思いました。でも、嫌な思いをさせたまま辞めさせたくなくて、彼らがかけもちしていたバイト先の飲食店に客として通って「お店で待ってるからね」と声をかけ続けたんです。その結果、全員が辞めずに残ってくれて「金さんとなら、もう一度頑張りたい」と言ってもらえました。理屈ではなく、一人の仲間として正面から向き合ったからこそ、彼らも心を開いてくれたんだと思います。
新たな武器を手に入れて
その後、店長として働く中で、新しく見えてきた課題や壁はあったのでしょうか?
金昇吾
ありましたね。店長になって2年目の時に、とある研修に参加したことがきっかけです。それまでは「自分の存在そのものでお店を引っ張る」というスタイルに自信を持っていたのですが、研修でほかの店長たちの力を目の当たりにして・・・。正直言葉を失いました。
それほどまでの衝撃だったんですね。具体的に何があったのですか?
金昇吾
その研修では、店舗の損益データを見ながら、数値改善のプランをつくる時間があったんです。僕はそれまで「売上が低いなら、活気を出してリピーターを増やそう!」といった、目に見える部分の改善策しか選択肢がなかったんです。でも、まわりの店長たちは数値の裏側にある「なぜそうなっているのか」という分析を論理的に深く掘り下げていて。「なぜこの時間帯にこのコストが発生しているのか」とか「この数値の乖離は何が原因なのか」と考えることで、原因の根本を突き止めていました。レベルが違いすぎて、打ちのめされましたね。
そこで自分の実力不足を突き付けられたのですね。
金昇吾
はい。「このままじゃいけない、成長したい!」と思ったところで次の異動が決まって、新しいエリアマネジャーとの特訓が始まりました。僕が報告すること一つひとつに「なぜ?」と問い続けてもらい、徹底的に思考の癖を鍛え直していったんです。例えば「パートナーの遅刻が多い」といった問題ひとつに対しても、以前の僕なら「自覚を持とう!」と根性論で片付けていましたが、「なぜモラルが低下しているのか?」「仕組みのどこかに欠陥があるのではないか?」と考えることを叩き込んでもらいました。
それは相当しんどかったのではないでしょうか。その訓練を続けていくうちに、何か変化はありましたか?
金昇吾
はい。1年後には、どんな課題に対しても自分一人で「なぜ」を問い続けられる習慣がつきました。以前は感覚でしか捉えられなかったお店の状態が、論理的な根拠を持って見えるようになったんです。エリアマネジャーや事業部長からの鋭い質問も、自分で考えて答えをだせるようになったとき、論理性が自分の武器になったという手応えを感じることができました。
目指すは「想い」で人を動かすリーダー
パッションと論理性、その両方を手に入れたんですね。現在の金さんの勤務内容を教えてください。
金昇吾
現在は、新人店長たちの研修を担当する教育店の店長を務めています。新人店長の彼らを見ていると、昔の自分を思い出すんです。自分の情熱を信じるあまり、仲間に押し付けてしまったり、逆に自分の未熟さを知って「もっと成長しなきゃ」と必死に答えを探したり。そんなとき、僕は「できない自分を認めて、ありのままを見せていいんだよ」と伝えています。論理性を叩き込んだからこそ、数字で正解は出せても実際に人を動かすのはリーダーの人間味や弱さ、そして熱い想いなんだと確信できたからです。
以前は、「理念が正義だ」と突き進んでいた金さんが、論理性を学んだことで逆に「人は理屈だけでは動かない」という原点に立ち返ったのですね。
金昇吾
本当にそう思います。論理はあくまで、理想のお店や自分のやりたいことを叶えるための強力な手段でしかないんです。どれだけ正しい理屈があっても、そこに「この人のために頑張りたい」という想いや「ここで働くのが楽しい」といった一人ひとりの充実感を引き出すことができなければ、本当の意味で人を巻き込むことはできないと思います。今後はエリアマネジャーに昇格して、かつての僕が救われたように、今度は僕が関わる人たちの可能性を引き出して良い影響を与えられる存在になりたいです。
葛藤を乗り越えてきた金さんの言葉に、重みと優しさを感じます。最後に、金さんの「なりたい自分」とは?
金昇吾
関わるすべての人に幸福とやりがいを与えられる人です。論理を使いこなしながらも、一人ひとりの感情を誰よりも理解し、感性を大切にしながらまわりの人たちの心を燃やしていける。そんな情熱と知性を兼ね備えたリーダーを目指して、これからも走り続けます。