本企画の目的と背景
編集部:今年初めて開催された「ネタのチカラ グランプリ」ですが、これはどういった企画か改めて教えてください。
田中さん:一言でいうと、物語グループの開発力強化と人財育成を目的とした開発コンペティションです。一人ひとりが持つ創造性や発想力を開放し、サービス・商品・デジタルの3つの分野において「新たな価値=ネタ」を競い合います。参加対象は、社員・パートナー(アルバイト)、加盟企業、内定者で、グループ横断の最大規模で開催される新しいプロジェクトです。集まったネタを、6つの評価ポイントを基に事業部長、ブランドマーケティングリーダー、業態開発本部長を含めたメンバーで計3回審査し、優勝者を決定します。優勝したネタは、プロジェクト化されて実現に向けて進行します。
編集部:ワクワクする企画ですね!田中さんは、本企画において運営責任者を任されたと聞きました。
田中さん:はい。「ネタのチカラ グランプリ」の設計から、企画書の作成、審査方法の決定や社内への周知まで幅広く意思決定とディレクション業務を行いました。普段は『寿司・しゃぶしゃぶ ゆず庵』のブランドマーケティングリーダーとして商品や販売促進の企画とディレクションを行っているので、それらと同じように進めていきました。
編集部:本企画を立案したきっかけを教えてください。
田中さん:当社は、一人ひとりが自分らしく生きることを応援する理念を基軸に、社員の声が尊重される文化・風土があります。誰でも自由に気付いたことを提案できる「なんでも提案実行委員会」など、自分の意見を言いやすい仕組みもありますが、そこで上がったネタを実現させるのは本部の開発部署で、提案した本人がプロジェクトに携われる機会はほぼありません。これをすごくもったいないと感じていたのが1つめのきっかけです。2つめは、より汎用的で実務につながる改善や開発の型を学ぶ機会をつくりたかったことです。開発四原則や業態開発手順など、物語コーポレーションがこれまで培ってきた開発理論はありますが、これは「新業態を開発するときのノウハウ」に寄っていて、実際お店での日々の業務における細やかな改善や開発には活かしづらいのではと思ったんです。この2点を解決する施策として「ネタのチカラ グランプリ」を企画しました。
編集部:その2つの課題を解決したいと考えたんですね。
田中さん:はい。なので、ネタを集めて審査して終わりではなく、優秀なネタをプロジェクト化し、提案・実行・振り返りのプロセスを提案者自ら主体となってやりきることができるよう設計しました。また、ネタの評価基準を6つ設けることで、ネタを考える際のヒントとして活用してもらいました。具体的には、①課題発見と本質的アプローチ、②競合他社や業界水準の理解、③顧客インサイトの深さ、④新規性と独自性、⑤実現可能性、⑥ブランドとの整合性です。これらを解説した動画を作成し、会社の開発を担う新たな人財を育成することで、物語コーポレーションの開発力の向上につなげることを目指しました。
運営責任者の意思決定とそこに込めた想い
編集部:「ネタのチカラ グランプリ」の実施において、田中さんが最も印象に残っている意思決定は何ですか?
田中さん:本企画のゴールを、物語コーポレーションの中期経営ビジョン「物語ビジョン2030」に結びつけようと決めたことです。ただ単に、ネタを集めるだけのお祭りイベントにはしたくなかったんですよね。「物語ビジョン2030」では、「業態開発型リーディングカンパニー実現に向けた全方位成長戦略」を掲げていますが、これには「開発を通じて会社の未来を引っ張っていく人財」が必要です。その人財の発掘と育成できる仕組みづくりをこの「ネタのチカラグランプリ」で実現したいと考えました。でも、もしかしたら仰々しすぎるゴール設定になってしまったかなと少し不安もあったんです。ドキドキしながら会議で説明しましたが、満場一致で「いいね!それで進めよう!」となり、すごく嬉しかったです(笑)
編集部:なぜ、開発を通じて会社の未来を引っ張っていく人財が必要だと考えたんですか?
田中さん:少し時がさかのぼりますが、4年前の新型コロナウイルスの流行がひとつのきっかけでした。当時、僕は人財開発部で新卒採用の担当をしていたんですが、緊急事態措置でお店が休業したときに「もしこのまま会社の成長が止まってしまったら、自分の仕事は真っ先になくなるかもしれない」と不安になりました。新しい人財が採用できるのは、会社が右肩上がりの成長を続けているからで、その会社の成長は当たり前ではないことに気付いたんです。5年先、10年先、100年先まで、会社の成長は自分たちでつくっていく必要があると痛感しました。それから、自分の判断軸として「この意思決定は会社の成長につながるか」を常に考えるようにしています。だから、今回の企画を会社の未来への成長投資として位置付けたんです。
編集部:会社の成長を自分事として捉えたからこその意思決定だったんですね。
田中さん:ゴールを明確に「会社の未来の成長につなげる」と定めたおかげで、ネタの評価基準や審査方法など、さまざまな枝葉の部分の設計を考えるときも、迷わずに進めることができました。また、同じ部署のメンバーや社長、各部門長のみなさんと意見を交わすときにも、このゴールを大切な指針として議論することができました。
本企画の成果と得られたもの
編集部:最終的に「ネタのチカラ グランプリ」の結果はどうなったんでしょうか?
田中さん:3つの部門でそれぞれグランプリを決定しました。商品部門では『お好み焼本舗 豊川店』の寺本崇志さんが提案した「鉄板おこフォンデュ」、デジタル部門では開発推進部の今井穂奈美さんが提案した「焼肉取り調べノート」、サービス部門では『焼肉きんぐ 古河店』の内田篤史さんが提案した「40分前ラストコール」の3つです。最終審査では計9件のネタが勝ち残っていたんですが、どれも甲乙つけがたくて、審査会議ではもめにもめました(笑)最終的には、ネタの中でも特にブランドの特性を高めるであろうものを選ばせていただきました。グランプリに輝いたネタはすでにプロジェクト化され、実現にむけて動いています。あと、惜しくもグランプリを逃してしまったネタも本当に素晴らしかったので、全部ではないのですが、一部プロジェクト化にむけて動き始めたところです。
編集部:本企画では、目標のひとつに応募ネタ数1,000件を掲げていたそうですが、それは達成されたんでしょうか?
田中さん:はい!最終的に1,202件のネタが集まりました。全社員の約半数にあたる835名が参加してくれて、とても嬉しく思います。一度本気でネタを考え始めると、意思決定に足りない知識や情報、自分に抜けている視点など、さまざまなものが見えてくるんですよね。参加した人たちにとって、今回の企画が新たな気付きのきっかけになっていたら嬉しいです。
編集部:田中さん自身は、この企画を通じて何か得られたものはありますか。
田中さん:設計力はもちろん、深く思考する力や言語化能力が鍛えられたと思います。この企画を進めるにあたって、「開発力とは何か?」を参加者に伝えたいと思っていたので、まずは自分自身が徹底的に考えました。具体的には、自分のいつもの実務において、何を考えて開発をしているか、どういう方法で開発をしているかを分解して、どう言語化するかを整理しました。これをきっかけに、部署の後輩メンバーたちに開発に関する知識を伝える研修を設計し、今年の11月から実施するなど、自分にとってもいい機会になりました。
編集部:最後に、「ネタのチカラ グランプリ」の今後の展望を聞かせてください。
田中さん:本企画のネタから生まれたプロジェクトに、提案者本人が主体的に深く関わって進めていき、その実現プロセスを社内に公表してもらいたいと考えています。ネタを出すだけではなく、実際に開発に関わることによって、「自分にも開発ができるんだ」という成功体験を積める機会を増やしたいですね。この企画を今後も第2回、第3回と継続して開催し、私が開発に必要だと考える6つの基準を浸透させることで、物語コーポレーションの開発力をさらに高めていきたいと思っています。
編集部:田中さん、ありがとうございました!